Urban Stage Research Institute Corporation

       
 

地域内循環システムと
地域経済の腰の強さ

 

1992.09.07作成

 地域の振興を図るために地域計画を検討する場合、短期的な効果を狙う場合の対応と、長期的な視座に基づいた対応とは根本的に異なる場合が多い。また、地域経済の再興策として採用されるものとしては、企業誘致による場合と、石川県七尾市で展開されている七尾フィッシャーマンズワーフの建設のような地域自らによる場合とに大別できる。
 ここでは、両者による地域経済構造への波及と効果の違いについて、モデル的に単純化した上で評価を加え、地域経済の構造と「経済的な腰の強さ」について考察する。さらに、スウェーデンにおける地域振興の考え方を通じて、長期的な視点で地域振興に必要な「地域内循環システム」について考察する。

1.地域経済構造の発展パターン

 現在までの経済指標は、各々の企業・産業毎の経済的規模を評価することを中心としてきた。しかし、実際の経済活動は、地域内の企業間や地域外の企業間の商取引(連関)を通じて行われている。
 これからの地域経済は、このような「企業間連関」も併せて評価すべきである。
 以下にこのような視点から、地域経済の発展パターンを考察する。
 図に示される記号は、下のような意味を持つ。
○:単一の産業・企業の経済的大きさ
●:企業組織のうち、経営戦略意思決定セクション(通常は本社)
−:産業・企業間の経済活動による連関(商取引)の強さ

 
(1)内発型展開(自律的展開)
 新しい産業(企業)が地元の資本で興され、それが成長するに従って、関連産
業(企業)が発生していくパターンは内発型の地域経済展開である。
 このパターンでは、地域経済の発展力や速度は地域の実情により様々である。
地域経済の規模によっては、かなりゆっくりとした展開となる場合もある。
 一方、事業の拡大や新規事業展開(産業興し)といった経営戦略の意思決定は、
主に地元経済の事情に鑑みて為される。即ち、ひと・もの・かね・情報といった
地域資源は、土産土法によって活用される。
 この点で、内発型の産業展開は、自律的展開とも言える。
 
  地域経済
 
 
 
 
 
 
  地元資本      成  長     関連産業    複雑で多重な
 による起業              の 内 発     地域内連関
土産土法:(料理用語)地元の産品を地元の料理法で調理すること
   
 
(2)外発(誘致)型展開(依存的展開)
 新しい産業(企業)が、企業誘致などによって地元以外の資本で興され、その成長に伴って、地域経済が発展していくパターンは外発型の地域経済展開である。
 このパターンでは、規模の大きい誘致が成功するほど、平均所得や出荷額などの一般的な地域経済指標は、跳水現象的・飛躍的に上昇する。
 一方、事業の拡大や新規事業展開(産業興し)といった経営戦略の意思決定は、地域外にある誘致企業本社によって為される。即ち、ひと・ものといった地域資源は、地域外の人間(組織)によって活用される。また、地域からの情報発信量が少ないため、「情報」が地域資源としては育ちにくい。
 この点で、外発型の産業展開は、依存的展開とも言える。
     本社        本社      本社        本社
 
         投資 利潤の       隷属的
                        流出        な関係
 
 
 
 
  企業誘致      外部資本に    成  長    単純で小さな
           よる起業             地域内連関
跳水現象:(水理学用語)上流の水門開放等により、水面が階段状になること生産額の推移やICの集積度・ビット当たりの単価などを時系列的にグラフ化すると、跳水現象と同様な階段状になることがある。
これは、技術革新等によって生産環境が格段に変化したためであり
地域経済も企業誘致等により跳水現象的な変革をする。
   
 
(3)地域経済の構造と人材
 経済構造の特性は、単に所得の多寡に限らず、人材の育成にも影響する。
 依存型の経済構造に満足している地域では、施主に対してねだり方の上手な人材が歓迎される。このような地域では、自律を志向して「施す者とせがむ者」の関係を打ち破ろうとすることは、地域経済の安定を揺るがしかねない。従って、このような考え方や行為は地域から疎まれることになる。
 一方、自律的経済を維持し自律的に発展させるためには、積極的に自らを修練し開発できる自己増殖型の人材が数多く存在しなければならない。
 自律的地域経済を達成している地域には、必ずこのような地域社会教育システムが存在する。このシステムによってあくまで自律的に地域(経済)を拡大・充実させているのである。
 従って、自律的地域経済を志向する地域では、まず自律的人材育成システムの構築に取り組むべきである。このような地域社会教育システムは、目に見えるものである筈がなく、また文献等からその真髄を得られる性格のものでないため手法の確立が困難で、成果もすぐには評価できない。
 しかし、そうであるからこそ、地域興し・街づくりリーダーが腹を据えて取り組まなければならないテーマである。
   

2.地域の経済構造と経済的腰の強さ

(1)内発型展開と複雑な地域内連関を有する都市(例:金沢)
 
 

   
 
(2)単一大企業誘致型展開と単純な地域内連関を有する都市
(例:石炭・鉄鋼・造船等の企業城下町的都市)
 
 
倒産・縮小
転換・撤退
経済変革
 
 
 
   単純な産業(企業)と      基幹産業の       大打撃
   単層的連関による        構造的不適合
   地域経済の構造
 金沢では、繊維産業から機械産業が興り、食品加工業等の発展とともに食品機械その他の多様な産業機械製造産業へと発展している。またそれぞれの産業でも、電話ボックスシェア一位、化粧品等のムース缶のトップ企業、コンピュータCRT(ディスプレイ)など業界一流の企業が多い。このように金沢は、多重で複雑な地域内連関を伴った内発型の地域経済構造を持っている。

参考文献:「金沢からカナザワへ」金沢経済同友会発行

   
 
(3)リゾート城下町の今後
 夕張や北海道・九州の炭坑都市、室蘭や釜石等の鉄鋼業都市、呉や佐世保等の造船業都市の例をひくまでもなく、単一製造業の企業城下町的な都市の[経済的な腰の脆さ]についてはよく知られているところである。
 一方、山間部等過疎地域を中心として行われているリゾート開発は、その殆どが地域外資本によるものである。また、投下資本額も従前の地域経済からみると桁違いの大きさであるが故に、軌道に乗った場合のプラスの影響も大きいが、事業が傾き始めた時の地域経済に及ぼすマイナス影響もまた甚大である。
 列島改造ブームに開発された別荘分譲地が、オイルショック後ゴーストタウン化するとともに地権者も再三交代しているため、再開発が困難を究めているといった地域(淡路島の一部など)の実情が最近報告されている。
 経済変革によって構造的に適合しなくなったリゾート地も、同様の運命を辿る危険性がある。大資本を一気に投下して整備し、会員権を大量に販売して短期的に資金回収するシステムが主流である今日のリゾート開発が、今後予想される数々の経済的環境変革にどの程度まで耐えられるものであるのか、我々は早急に地域経済の立場で厳しくチェックする必要がある。
 「地域に根ざした」産業を育成するためには、地域の経済規模等の実態に見あった規模の資本投下と、展開速度が存在する。大規模開発で有名な占冠村のトマムでは、当初地元との合意で従業員に地域の若者を採用する予定であったが、若者が地元に残らず、採用に苦慮している。さらに提携元であるオークラからの従業員とのレベルの差は、如何ともし難く、地域外からの採用を行わざるを得ない
のが現実である。
 製造業と異なり、リゾート業に要求される人材は資質が特徴的であるため、過疎の激しい地域ではかなり難しい。このような人材の育成を企業努力に求めれば、効率よく可能であるが、結果的に従業員としての域を出ることが出来ない。
 むしろ地域が苦悩しながら進めるならば地域全体の財産となる。静岡県天竜市熊地区で着実に実績を上げつつある「水車の里・かあさんの店」の試みは、決してそれだけでなしえたものではなく、その底流に「あいさつ運動」等の地道な活動があったからである。熊地区の「あいさつ運動」は徹底しており、見知らぬ人の分け隔てなく老若男女の別もなく挨拶が交わされる。こうした運動の中から人
々は爽やかな「こころ」を育んで来たのであろう。この「こころ」がホスピタリティそのものであり、それなくしては「水車の里・かあさんの店」の成功も地につかず上辺だけのものとなったであろう。
 このように、地域経済の再興は、単に経済的な豊かさの追及にとどまらず、たとえ経済的波及効果は小さくとも、地域の人々の表情が輝くような意味付けを与える事にも役割がある。
 後者を犠牲にして進められる経済活動は、経済的豊かさを満足できても、さらに高尚な精神的豊かさの実感に至る道程を遥かに眺めるだけのものとなるであろ
う。ドイツや北欧を中心とした欧州が精神的豊かさの実感できる社会の建設を進めている根本的な理由を見据える必要がある。
   

3.スウェーデン式中小企業育成の論理

(1)なぜ中小企業育成か
 福祉国家として知られているスウェーデンでは、「すべての地域が生き生きと」をキャッチフレーズに、国策として中小企業や個人起業の育成を図っている。
 国が企業や個人に対して補助金を交付する制度や、経営や経理の講習などを開催している。国が直接企業や個人に金を出す制度の是非はともかく、このような政策を採用している理由は、以下に示すとおりである。
 いま、次に示すようなA・Bふたつの町があったとする。両者とも全体としての雇用力は、30人で同数である。
A町:一人しか採用しない30の企業
B町:30人採用する一つの企業
 二つの町に経済変革の影響で一つの企業倒産が会ったとする。
A町:一人の失業者と29人の友人
B町:30人の失業者
 A町では29人の援助で復興が出来るが、B町では出稼ぎにでるか、新たな企業誘致に走らなければならない。...
 どちらが経済的に[腰が強い]のか?
一人の失業者と 29人の支援
   一人×30企業 29人の友人 による復興
A町
経済変革
新たな企業誘致
   30人×1企業 30人の失業者 or30人の出稼ぎ
B町
経済変革
 スウェーデンでは中小企業育成の論理をこのように説明している。

   
 
(2)中小企業育成の底流にあるもの
 ここで重要な点は、A町に於いて企業倒産が発生した時、周りに29人の友人が存在するとしていることである。日本で同様なことが言えるであろうか?
 中小企業育成の他に地域社会の強力な連帯意識醸成のプロセスが働いていることを示唆している。このことを我が国では、長い間忘れてきたようである。
   

こうして見てくると、自らと次の世代にどのような姿の地域経済・地域社会を
実現し残せばよいか、我々は改めて根本から考え直す必要があるようである。

4.地域内
  循環システム

 @産業循環
 「地域の経済構造と経済的腰の強さ」の章で述べたように経済的に腰の強い地域経済の構造を形成するには、地域内における産業もしくは企業間の循環・連関が重要である。
 A人的循環
 また、「スウェーデン式中小企業育成の論理」でみたように、地域内産業循環を強化するために、地域内の人的な連関・循環が必要である。
 B情報循環
 さらに、各地で積極的に展開されている異業種交流会のように、それらに付随して各種の情報の地域内循環も「腰の強い」地域を形成するために欠かせないものである。地域内の情報循環には、また地域内の資源を地域外に発信したり、地域外から受信する感度を揚げる機能もある。
 以上の関係を整理し、地域内循環システムの基本的要素として構造化すると、下図のようになる。
・産業の多重連関
・意思決定権
産 業 循 環  新産業育成
 
もの・かね 開発
地域外 地域外
 
 
 
人 的 循 環  情 報 循 環 
   
ひ と 情 報
・連帯意識 ・地域内交流
・人材育成 ・資源の発掘
 
 
地域外 情報受発信
地域間交流
地域内循環システムの基本的要素
 我が国を取り巻く国際情勢や、時代潮流が急速に変化しつつある現在、真に地域の振興を図ることができる地域計画を検討するにあたって、 立案した計画が地域内循環システムの基本的要素をどのように満足するのか、十分に検討すべき時が到来している。

   
 
       
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