Urban Stage Research Institute Corporation 

       
 

あそびと地域社会

代表取締役

濱 博一

   
 
   
1.あそびの社会性
●あそびの三面性
 あそびは、何がしかを満たされるという自利の発見から個人の趣味になる私益としてのあそび、個から始まり共感・共鳴の輪が広がって地域での利他・超経済的利得を共有する共益としてのあそび、プロ化したり娯楽化することで産業化され経済益として捉えられるあそび、に分けられる。
 
●あそびのらせん構造
 あそびの三益は、らせん状に関連し高度化しあっている。わが国固有の歌舞伎を想定例として考察する。歌舞伎は、創始者・出雲阿国が特異な踊りに自利を発見し、個人的に行われた。人々に超経済的な利得が見出され、共感・共鳴の伝播が起こると社会性が発現しはじめる。やがて役割の分化も起こって観る側と観せる側が現れる。利他から始まった遊ばせ上手がより発達すると、社会的な広がり・流行と合わせて経済的な利得が発見され、専業家が生まれ娯楽として産業化される。専業家やその子弟は、芸道に精進することで個人的な高みを求める自利・私益へと回帰していく。このようにあそびの三益は関連しつつらせん状に高度化する場合がある。
 わが国では茶道など人々の中から沸き起こったあそびから自己深化を重ね、「道」として洗練・高度化され固有の文化性を持ったものが少なくない。
 
●現代的あそびと産業化の波
 現代におけるあそびは、これら三益のうち、経済益の極大化に問題点がある。三益の輪の上に成り立っていたあそびから私益と経済益だけがダイレクトに結合し、超経済的利得に根ざす共益部分が弾き飛ばされている。産業化されたあそびの受益者である消費者の個人的遊びと、娯楽として上手に遊ばせて経済益を吸収する産業からの動きがほとんどを占めつつある。
 現代の産業化されたあそびには個と産業の対話が重視され、あそびの源泉である創造性を発揮する自由度に乏しい。
 
●地域社会とあそび
 一方で、地域コミュニティの再構築や、地域性を再発見するための地域づくり活動が各地で盛んである。あそびも同様に超経済的利得に根ざした役割が再認識されつつある。
   
2.あそびと
    地域づくり
 このような点から、あそびと地域づくりは、総合的に次のように整理できる。
 
●特徴
 あそびがある地域づくりは住民に分かりやすく楽しいものになり、参加の吸引力を持つ。住民参加のしかけとして活用しやすいことが、大きな特徴である。
 
●意義
 楽しみながら地域をより深く学べること、ワークショップに代表される分権型の合意形成が可能なことに、参加を求める方向性としての意義がある。
 
●リスク
 一方、参加意識のレベルによっては、動機付けであったはずの楽しみが自己目的化して成果が低くなったり、目的が発散しやすいリスクがある。
 
●対策
 対策として最も重視されるべき点は、戦略的意図の存在である。企画段階から、目的を明確化し参加対象を絞り込んで予め成果を設定すべきである。戦略的意図に基づくことで必然的に成果の担保や、運営手法などのリスク回避手法が展望できる。
 
●方針
 住民参加の現場では、運営手法の各論としてコーディネートの技術論が要求される。基本的な運営問題は「現場での事態にいかに臨機応変かつ適切に対応できるか」である。あそびにはルールと自由度の二面性がある。ルールが小さくなると勝手気ままになり、自由度が少なくなると硬直化する。
 基本は単純だが結果は多様となる自然界の法則に則った運営が大切である。
 
●課題
 あそびがある地域づくりの展開と可能性を追求して確固たる運営論を確立し、参画と参加の役割分担を明確にすることが課題である。その姿は『成長する参加型地域づくり』であって当初から満点の回答があるものではない。考察と実践の中から積み重ねられていくものである。
   

3.シンクタンカーの
役割

 論点は、「どこまで実践現場に関わるか」に収斂するが、まず時代的要請を捉える。
 
●激変の時代からの要請
 多面的かつ急激な変革により、見通しがつきにくい時代にあって、求められているものは、新しい道標を観じさせる提言や政策立案力であろう。
 単に対象を調査・分析し計画立案するだけで、新しい道標を内包する提言が可能であるか、深く再考せねばならない。本テーマを借りれば「遊ばない人間に、遊び上手・遊ばせ上手な提言ができるのか」という問いとなる。
 
●実践現場の知恵
 さまざまな問題を解決していく現場の知恵をつぶさに観、問題発見力を磨くとともに、その奥に潜む根源的・構造的な問題を見抜く力を備え、そこから新しい理論を展開し、政策として仕上げていくことが重要である。
 現場での人間関係に起因する瑣末に見えるトラブルなども、視点を変えれば人間という生物が持つ思考能力の限界と可能性が発見できる苗床かもしれない。問題とその解決方法は、現場に潜んでいる。
 
●暗黙智
 地域には独特の歴史的背景や地域にだけ共通する価値観・評価尺度がある。現場での豊富な情報共有から、暗黙智を捉える冷静な眼も同時に持っていなければならない。むしろ、どのような視点を持とうとするかが重要になる。実践現場との関わり方は、自ずから決まっていく。
   
4.おわりに
 個のあそびは、自己の瞬間的最大表現である。従来常識を超え、限界を打破しようとする生命力の発露である。夢中のひとときは、自己がほとばしり、観念の及ばぬ地平を垣間見る。そこから新しい社会のいのちが産まれはしないか。社会的活動に新しい生命力を吹き込む母胎として、あそびと地域社会の関係性を再評価する時代が来ている。
 多様な視点と知見を共有させて頂いた今回の研修会参加各位に深く感謝するとともに、テーマをより深く掘り下げる場の充実を、強く願いたい。
 
   
 
 この論文は、地方シンクタンク協議会主催「第一回中堅研究員研修会」(平成11年度)の参加報告書として主催者に提出したものである。