前号に引き続き、京セラの稲盛和夫会長は、大略次のように述べられた。
「地球という環境は、何百万の生物を生み、共存させ、共生させてきた。しかし、われわれ人類のつくり出した文明社会のためにその種が年々絶滅しつつある。それはまさに自然が人類に警鐘を鳴らしていることにほかならないし、その大本は、欲望の肥大化を追求している人類の傲慢さではないか。私は今改めて、人類は謙虚に反省する時期に来ているのではないかと思うわけです。」
一方私(加藤)は、NECの関本忠弘会長に対しては、技術力とともに「社会システム」を強調しておられるが、どこをどう変えようと考えておられるのかを尋ねた。それに対し、関本さんは大略、次のように述べられた。
「人間というのは、やはり幸せを求めるものです。それには、物の豊かさと心の豊かさがあります。
総理府のアンケート調査によれば、日本の社会は、かつては60〜70%の人が物の豊かさを求めていましたが、今では30%ほどになり、心の豊かさの方向に行っているのは事実です。
しかしともあれ、少しでもよくなりたいというのが人間というものの本質だと思うのです。若い人も、高齢者は高齢者なりに、豊かな生活をしたい、物の豊かさと心の豊かさです。これを前提で私は言っています。
さきほど稲盛さんのおっしゃった地球の環境容量の限界の問題ですが、そもそも「地球の環境容量」とは何なのですか。これは宇宙開発やフロン、NOx、SOx対策などで示されたように(環境容量はあらかじめ定まったものではなく)もっと科学技術を使い、科学的知見をもって、チャレンジしていかなければならないものであり、今はそういう時代ではないですか。
「社会システム」については、例えば廃棄物や排水問題などに対したように、環境を破壊しないようなルールづくりが必要です。ただ環境税については、無闇にそういう恰好で産業を抑えるべきではなく、産業の自主性の問題から言って、もう一寸待って下さいと言っているのです。」
以上、稲盛和夫、関本忠弘という個性豊かな、たいへん優れた日本の経営トップの意見をかなり詳しく紹介した。私は、それに値する内容と思いそうしたが、会員の皆様はどう受け止められたであろうか。私は、このお二人の、時間にすれば各15分ほどの発言のなかに、私が4年近く「環境文明論」として行きつ戻りつ考え、友人たちと議論を重ねてきたことのエッセンスが詰まっているように思え、大いに刺激された。
今度は私なりに、稲盛さん流の考え方、関本さん流の考え方、いわばお二人のロジックといったものを今一度整理しなおしてみると次のようになろうか。
<稲盛流>
<関本流>
本会の会員は容易に推測がつくと思うが、正直いって私自身の考えは稲盛流にごく近い。環境文明論、すなわち、長期的な社会の持続性とそれを可能にする価値観、制度、技術を探求することは、まさにそのためにあると思うからである。特に「足るを知る」をベースとする経済システムを構築せんとする意図は誠に魅力的であるが、現在の日本の主流となっている考え方には距離をおいて、経済人としてこの考えをどう現実のものとしようとしているか、稲盛さんの今後の準備と挑戦とを注目していきたい。
同時に私は、関本流の考え方にも敬意を払いたい。実際、現在の日本で多くの人が考え感じていること、例えば前回の総選挙などで国民が示した主要関心事項、環境保護に少なからぬ関心を払っているマスコミさえも、景気との関連では、景気対策(内需喚起=公共事業)を政府に迫る現実、街の声などを聞けば、関本流が現在でははるかに支持を集めていることは疑いようがないからである。それにもかかわらず、関本流の考え方には、いくつかの深刻な疑問がある。その一つは、豊かな日本で、人口も0.2〜0.3%程度しか毎年増えていないのに、なぜ経済は2〜3%も「成長」しなければならないのかである。人間の長い歴史を振り返ると、長期にわたる全面的な成長などあり得ないし、その必要もない。真に必要なのは経済の成長などではなく、自然の豊かな恵みのなかで生活の持続性を確保することではないだろうか。関本流に言えば、その持続性は2〜3%の経済成長以外には確保できないとのお考えであろうが、それは疑問である。
もう一つの問題は、地球の温暖化による気候異変や生物種の大激減などの現象を前にしても、まだ地球の環境容量に余裕があるとお考えなのであろうか。私にはとてもそうは思えない。
私はたまたま毎日新聞社の125周年企画に招かれたお蔭で、稲盛、関本という現代日本の個性ある経営者の相異なるお考えを肉声で伺うことが出来た。
私はあれかこれかの単純な選択ではなく、この二つの意見をともに、牛が反すうするように繰り返し、繰り返し考え抜き、21世紀に真に役立つ思潮の形成にささやかながら貢献したいと思う。この議論の発展、深化のために会員諸氏の意見もどうかお聞かせいただきたい。
(かとう さぶろう/「考える会」代表)